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高齢者の賃金に関する新聞記事

65歳までの雇用、義務づけ 高齢者も「支える側」に

 ◇社会保障・安心

希望者全員を65歳まで雇用する制度を企業に義務づける改正高年齢者雇用安定法が、8月29日に成立した。少子高齢化に伴い現役世代の人口は今後、急速に減少する。高齢者にできるだけ長く働いてもらい、社会・経済の「支え手」に回ってもらうことは、成長戦略としても、社会保障制度の安定のためにも、欠かせない。(野口博文)

 ◆唯一の選択肢

「仕事は張り合い。家でのんきにしているより、元気なうちは働き続けたい」

松山市のタクシー会社「四国交通」の最年長ドライバー松本慎治さん(75)は、月12回の乗務で手取り月収20万円ほど。孫にプレゼントを買うのが楽しみだ。

同社は、従業員73人のうち4割の29人が60歳以上。2008年に定年を60歳から70歳に引き上げ、75歳までの再雇用制度も導入した。

高齢ドライバーに配慮し、通常より明るいヘッドライトを採用。コンビニエンスストアなど市内8か所に車の待機場所を確保し、休憩を取りやすくしている。

雨の日は乗客に傘を差し出すなど、高齢者ならではの気配りが支持され、固定客からの電話での配車依頼が業務の73%に上る。街中を走りながら乗客を待つ「流し営業」が少ないので、高齢者も働きやすく、経営も安定。鵜久森(うぐもり)勝社長は「高齢者は接客がうまく、安全意識も高い。ドライバーの質が経営を左右する業界で、高齢者の活躍が会社の繁栄を支えている」と話す。

2030年の就業者数は、10年の6298万人から最大で845万人減少する。厚生労働省の有識者研究会が7月に公表した推計だ。

働き手の減少は経済成長を妨げ、消費を減らし、さらに経済を縮小させる。総人口が減少に転じるなか、高齢者や女性が働きやすい環境を整え、働き手を確保することが欠かせない。社会保障制度の安定のうえでも、「支えられる側」から「支える側」に回る人を増やすことが重要だ。

権丈英子・亜細亜大教授は、「50年後には人口の4割が65歳以上になる。今の60歳代は元気で、社会参加の意欲も高い。できるだけ長く働き、社会の支え手になってもらうことは、高齢者自身の希望にもかなうし、超高齢社会に向けた唯一の選択肢」と指摘する。

 ◆業績向上の例 多数

企業には06年度から、65歳までの雇用確保措置が義務づけられている。ただ、8割以上が定年後の再雇用制度で対応し、その6割近くが選定基準を設けて対象者を絞れる仕組み。今回成立した改正高年齢者雇用安定法で、こうした選別は認められなくなった。

従来、人材確保が比較的容易な大企業を中心に、高齢者雇用に消極的な姿勢が目立ち、経済界は法改正に当たって、「コスト増になる」などと強く反対してきた。しかし、高齢者の活用を業績向上につなげている企業も多い。

佐賀市内でスーパー3店を運営する協同組合「アルタ・ホープグループ」は、08年に希望者全員を70歳まで再雇用する制度を導入。経験を生かして現場で若手の指導に当たってもらう。高齢者向け業務として夜間の店舗責任者「ナイトマネジャー」、レジ周辺で接客や軽作業を行う「お客様サービス係」も創設した。

勤務時間や日数は、健康状態などに配慮し、本人の希望に応じて柔軟に決める。馬場儀昭・人事部長は「ベテランの助言で若手が育つ。正社員の残業が減って商品企画などに力を注げる。高齢者の活用はメリットばかり」と話す。

高齢者雇用の拡大には、「若者の雇用を圧迫する」との懸念も根強い。しかし、65歳までの雇用確保措置が義務づけられた06年の前後で、60~64歳の就業率は上昇したが、若年層の就業率はほとんど変化しなかった。欧州では1970年代以降、高齢者の早期退職を促す施策を展開したが、若年層の失業率は改善せず、逆に退職者への社会保障給付が膨張して財政負担が増した。

静岡県磐田市のパイプ製造会社「コーケン工業」は、高齢社員が希望すれば何歳まででも継続雇用する一方で、毎年10人前後の大卒社員を採用している。

製品開発などは若手社員、手作業の工程は熟練の高齢者が主に担う。村松久範社長は「若手には創意工夫を期待し、高齢者には経験や技能を生かしてもらう。仕事の性質や雇用の目的が全く違う。どちらも欠かせない人材」と話す。

働く高齢者を増やし、能力を十分発揮してもらうには、現役時代からの働き方や、賃金制度などの見直しも必要だ。60歳以降は一律に低賃金で単純な業務だけ、という考え方のままでは、高齢者と会社の双方にとって利益にならない。

「長く働き続けるには、健康状態など個人の事情に合わせて労働時間や日数を選べる、柔軟な働き方の普及が大切。また、高齢期でも働く意欲を維持できるよう、能力や技能に応じた処遇が求められる」と、権丈教授は指摘する。

働く側も、会社任せではいられない。藤村博之・法政大教授は、「労働者自身が会社に必要とされる人材になるよう、現役時代から能力開発に努めることが重要。企業の役割は、その機会を提供し、労働者の意欲を引き出すこと。高齢になっても能力を発揮できる職場作りを、労使が一緒に進めていく意識を持ってほしい」と強調している。

 〈改正高年齢者雇用安定法〉

希望者全員が65歳まで働き続けられるよう、再雇用対象者を選別できる従来の規定を廃止。2013年度から25年度にかけて厚生年金の支給開始年齢が引き上げられるのに合わせて、年金も賃金もない「空白期間」が生じないようにする狙いがある。13年度は61歳までの再雇用を義務化。3年ごとに1歳ずつ引き上げ、25年度に65歳とする。

 ◎お便りをお寄せください。〒104・8243読売新聞東京本社・社会保障部(ファクス03・3217・9957、Eメールansin@yomiuri.com)
◎次回の社会保障面は24日掲載予定です。

 図=就業率の推移
図=何歳ごろまで仕事をしたいか
図=希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合

 写真=最高齢ドライバーの松本さん。丁寧な接客が好評だ(松山市の四国交通で)

[読売新聞社 2012年9月3日(月)]

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