高齢者の賃金に関する新聞記事
サントリー「65歳定年制」 大企業に導入の動きじわり
【高重治香、米谷陽一】 定年年齢を60歳から65歳に引き上げる動きが大企業にも出てきた。サントリーホールディングスが11日、来年4月の「65歳定年制」導入を発表。来年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、65歳までの雇用確保が義務づけられるためだ。
サントリーは今年9月に労働組合と合意した。正社員約5千人が対象。新制度でも60歳以前の賃金体系は変えない。60~65歳の賃金水準は能力や経験に応じて60歳時点の賃金の6~7割になる。退職金は60歳で額が決まり、65歳の時点で支払われる。企業年金の支給は65歳からになり、予定利率は年3%から2%に引き下げる。
サントリーに今あるのは、60歳を過ぎても働きたいと希望した人を1年契約で更新して65歳まで再雇用する制度。昨年の場合、定年を迎えた95人のうち82人が再雇用を希望し、80人が採用された。今の法律では労使協定で再雇用の基準を決めることができるため、全員が対象ではなかった。
新制度では、60歳以降の賃金は再雇用に比べて上がる。現在再雇用されている人の賃金も上げるため、人件費は年十数億円増えるという。
サントリーの広報担当者は「再雇用では雇用契約がいったん切れるために意欲がそがれ、後輩との距離感が生まれていた。今後は同じ正社員として能力や経験を生かせる職場になる」と話す。新卒の採用数には影響しないという。
厚生労働省によると、65歳以上の定年制を導入している企業は全体の14.0%。ただし、従業員1千人以上の企業の中では、3.1%にとどまる。スーパーのイオンが2007年2月から65歳定年を導入。三菱重工業も導入に向けて労使が協議中だ。
賃金水準を変えずに65歳定年制を導入すると人件費が膨らむため、多くの企業では60歳以前の賃金水準を見直す必要がでてくる。労働者も人生設計の見直しを迫られ、労使の話し合いには時間がかかる。このため、65歳までの雇用が義務づけられても、多くの企業が再雇用制度の手直しで対応するとみられている。
◇
〈高年齢者雇用安定法〉 現在は定年を60歳未満にすることはできない。さらに、65歳まで働けるように、(1)定年の廃止(2)定年の引き上げ(3)再雇用制度――のどれかを導入するよう義務づけている。再雇用制度の場合、労使で基準を決めれば再雇用する人を限定できた。来年4月に改正法が施行され、この基準は認められなくなる。会社員が入る厚生年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられ、男性では2025年度に65歳になるためだ。企業は定年を引き上げるか、希望者全員を再雇用しなければならなくなる。
[2012年10月12日 朝日新聞]